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東京高等裁判所 平成9年(ラ)809号 決定 1997年8月06日

抗告人 大竹妙子

遺言者 大竹英

主文

1  原審判を取り消す。

2  本件を横浜家庭裁判所に差し戻す。

理由

1  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙申立書の「抗告の趣旨」及び「抗告の理由」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

2  本件遺言は、「私の遺産相続については、一切妻妙子にまかせる。」というものであるところ、原審判は、本件遺言は委託の内容が包括的白紙的で具体性に欠けるから、無効であり、仮に遺産分割方法の指定を委託する趣旨であるとしても、法律上、相続人の一人である妻に右指定の委託をすることは許されないから、いずれにしても無効であるとして、遺言執行者選任申立てを却下した。

しかしながら、遺言の有効、無効は、訴訟手続において確定されるものであるから、遺言執行者選任の審判手続においては、原則として遺言の効力を判定すべきではなく、遺言が一見して明白で無効である場合に限って例外的に当該申立てを却下し得るにすぎないと解すべきところ、本件遺言の趣旨は、確かに、委託の内容が明らかでなく、また遺産分割方法及び相続分の指定を委託するものと解することができるとしても、これらを相続人に委託することができるかについては問題がないわけではないが、遺言者の意思を忖度して、本件遺言の趣旨を遺産一切を妻妙子の自由処分にまかせるもので、同人に包括的に遺贈する趣旨と解することもできないではなく、そうであるとすると、本件遺言が直ちに無効であるとはいい難いこととなる。このように本件遺言については、その解釈によっては有効と考える余地もあるから一見明白に無効とはいい難く、別途訴訟手続においてその効力を確定すべきものというべきであり、その無効を前提に遺言執行者選任申立てを却下するのは相当とはいえない。

3  以上によると、本件申立てを却下した原審判は不当であるからこれを取り消し、適切な遺言執行者を選任するため本件について更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判 官町田顕 裁判官 末永進 藤山雅行)

別紙申立書<省略>

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